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遠藤: まず、田代さんがされてきた京セラフィロソフィ(経営哲学)に関するお仕事について聞かせてください。
田代: 私は現在京セラ社員が全員持っている手帳を作りました。この手帳は稲盛さんが現場で気づいたこと、思いついたことを書き留めた語録集がもとになっています。当時、稲盛さんはこれらの語録集をもとに社員に自身の思いや哲学を伝えていました。いつしかその内容は講義録としてまとめられるようになり、全社員に配布されるようになりました。その講義録は、B4用紙で厚さ3cmほどありました。
遠藤: 大変な分量だったんですね。そこからなぜ手帳を作るということになったのでしょうか?
田代: 私が入社した1985年は国内社員数が8000名規模になり、稲盛さんも現場に出られる機会が少なくなり、講義録を配っただけではこれまでのように自身の思いや哲学を浸透させることが難しくなっていました。先ほどもお話ししたように、講義録は容易に持ち歩けるサイズではありませんでした。そこでみんなが現場で参照しながら話し合うネタになるよう手帳にしていつでも持ち歩けるようにしよう、ということになりました。私が入社して4~5年後のことです。
遠藤: 手帳を作るためにはどのようなことをされたのですか?
田代: このプロジェクトのために集められたのは、工場勤務の長い社員3~4名と、私を含めた総務の2名でした。私たちはまず、フィロソフィの根幹となるような言葉を120項目に集約し、1項目ごとに200字程度の解説文を書いていきました。そして、稲盛さんのところへ行っては何度も話し合って作り上げていきました。
遠藤: 出来上がった手帳はどのように使われたのでしょうか?
田代: 手帳を全社員に配布し、朝礼で担当者が読み合わせをしていく活動をスタートさせました。ただ読むだけではなく、その項目に関する経験談もプラスするようにしました。この活動は現在も続けられているそうです。

遠藤: 京セラフィロソフィ浸透のために尽力されてきた田代さんは現在、経営理念構築のお仕事をされていますが、始められたのはどういうきっかけがあったのですか?
田代:

一言で言えば、「社員みんなを同じ方向(ベクトル)に向かわせ、力を結集させたい」と思ったからです。

遠藤: なるほど。目標に向かって社員全員を団結させるわけですね。
田代: 稲盛さんがよく、「社会はいろんな考え方の人がいていい。しかし、会社はトップの思いと揃えてもらわないと困る」とおっしゃっていました。会社は明確な目的・意義を実践するミッションを持った集団であり、同じ価値観を共有しなければうまくいかないし、収益も上がらないと思います。
遠藤: そうした価値観を共有する元になるのが経営理念というわけですね。
田代: そうです。経営理念を通して、会社の思いと社員の思いが重なり、みんなが幸せになれるような企業風土作りのお手伝いをしたいと考え、今日も取り組んでいます。

遠藤:

もう少し掘り下げて理念についてお聞きします。私もそうですが、経営者は会社を作る時にこんな会社にしたいと思って理念を作りますよね。しかし、理念はあっても会社によっては社員には浸透していないケースも多いかと思います。その理由として社員は社長ほど創業時の思いを理解しているかというとそうではない気がするのですが…

田代:

まあ、よく「お題目になっている」という表現で使われたりしますね。
遠藤さんがおっしゃる通り、社長の思いが理念になり、それをベースに会社は形作られていると思うのですが、後から入ってくる人は社長ほどの思いを持たずにいることが多いと思います。

遠藤:

そうした社員にも社長の思いを理解してもらう、お題目にならないようにするにはどうするといいのでしょうか?

田代:

社員に社長の思いを伝えるためには、理念を「理解」し、「共有化」し、「体得」し、「実践」する仕組みが必要です。理念はみんなの共通基準として共有化するまできっちり浸透させないと意味がありません。そして、全員が同じレベルまでわかってもらえるようにする仕組みが必要になります。

遠藤:

浸透するための仕組みとはどういうものでしょうか?

田代:

例えば、先ほど京セラでは朝礼で読み合わせをしているとお話ししましたが、そうした活動も1つです。ここで重要なことはとにかく継続することです。浸透のためには地道な活動が欠かせません。その上で制度や仕組みを活用して継続を促すよう補強することも必要です。教育のプログラムに組み込んで実施することも効果があります。

遠藤: なぜ、制度を活用するといいのでしょうか?
田代:

制度化は社員みんなが実践しているかチェックでき、理念を定着させやすいからです。京セラの場合、アメーバ経営と京セラ哲学というのは完全に表裏一体、車の両輪みたいなもので、両方がないとそれぞれがうまく機能しないという仕組みになっています。

遠藤: 私は以前勤めていた人材採用サービス会社では、社訓に「自ら機会を作り出し、機会によって自らを変えよ」というものがありました。特に朝礼や理念を読み上げることは一切していませんでしたが、それでも社訓はみんな覚えていました。
田代:

そうだったのですね。理想は理念があって、自分の周りの人が理念に基づいた行動を実践しているのを見て、理解・浸透していくのが一番いいと思います。風土になってしまえば遠藤さんがおっしゃったようにあえて朝礼で理念を読み上げるなどの機会がなくても浸透していくと思います。

遠藤: でも、理念が社員に浸透していない企業が多いということは、なかなか実践することは難しいということなのでしょうね。
田代:

そうですね。なかなか実践されることが難しいとなると「意識を揃えて行動する」ことと「行動をきっかけにして意識を変えていく」ことの両方からのアプローチが必要だと思います。そこで手帳などのモノを作って、それを何らかの形で反復して使用しながら、言葉プラス意識・精神を理解するとともに、行動面からみんなでチェックしあい、体得していくことになると思います。


遠藤:

「経営理念は変わらず、経営方針は必要に応じて変わる」と聞いたことがあります。しかし、経営理念が時代とともに変わっていくこともあるように思いますが、田代さんはどう思われますか?

田代:

そうですね。私の基本的な考えでは、理念は創業時の志だから変わらないものであり、流行で変えるものではないと思います。ただ、志が変わった時は変えることはあり得ると思います。

遠藤:

志が変わる時というのは?

田代:

例えば、業態が大きく変わるとか、大きく使命を変えていくとなった時です。

遠藤:

起業するときのような思い切った変化の時ですね。

田代:

理念以外にもう一つ変わらないものがあります。それは行動指針です。この行動指針を京セラではフィロソフィといっています。経営理念はいうなれば人間の本質に根ざして立脚しているものだと思います。その経営理念を実践するための行動指針ですから最終的に目指すところは理念と同じです。ですから基本的には変わらないものといえます。


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